(約11ヶ月前に「Ptarmiganの会」と言う一般団体から講師として参加したものです)

実施日:2020年2月16日(日)10:00〜12:00

場所:吉峰地内

参加者:約6名

「Ptarmiganの会」富山県自然解説員の方が英会話を取入れるために種々の研修会を続けておられる会です。

研修会では下記の趣旨に基づいてすすめました。

まずは向学心のあるナチュラリスト仲間の一般知識向上を図る。

冬芽から樹木鑑定することは図鑑などで確立されて独学できますが、そのおさらいをする。

吉峰園内の樹木銘板内容はしっかりしています。通常は冬芽やら樹皮やらを見て樹木名を学ぶのですが、今回は逆で、樹木名から冬芽、樹皮、その他のヒントを学びます。

単に樹木名と冬芽を結びつけるだけでなく、樹木の生理・生態を結びつける。

当日使用した資料の一部

樹木医らしい話題で樹木にまつわるホルモンの話をしました。

「オーキシン」、「ジベレリン」、「エチレン」、「アブシシン酸」、「サイトカイニン」

期待に応えてがんばる!

「植物にやさしい言葉をかけて育てたら、きれいな美しい花が咲く」といわれます。でも、残念なことに、やさしい言葉をかけて植物を育てたからといって、特別にきれいな美しい花が咲くことはありません。しかし、きれいな花を咲かせた経験をされた人がおられます。そのような人が身近におられたら、「やさしい言葉をかけながら、植物を撫でて育てていなかったか」と尋ねてください。きっと、撫でて育てられたはずです。

植物は、撫でられると、「触られる」という刺激を感じるのです。植物は神経がないのに、どうして触られたことがわかるのでしょうか。実は、何かに触れると、植物は花吹かせる日を夢見てのからだの中でエチレンという気体が発生するのです。

私たちのからだの中では、いろいろな「ホルモン」がはたらいています。成長を促進する「成長ホルモン」、血液中の糖の濃度を下げる「インスリン」、逆に血糖値を上げる 「アドレナリン」などです。ホルモンというのは、特定の組織や器官でつくられ、からだの中を移動して、別の場所で、きわめて微量で作用をおこす物質の総称です。私たち人間のからだは、これらのホルモンにより、正常な状態を維持し成長するように調節されています。植物にも.「植物ホルモン」 とよばれる物質があります。「オーキシン」、「ジベレリン」、「エチレン」、「アブシシン酸」、「サイトカイニン」などです。この中で、「触られる」という刺激を感じて植物のからだの中で発生するのが、エチレンです。

エチレンには、茎の伸びを止めて背丈を低いままにして、茎を太くたくましくする作用があります。だから、植物は撫でられると、発生したエチレンによって、背丈の低い、茎が太くたくましい植物になるのです。

茎が短く太くたくましくなった植物は、大きくりっぱな花を咲かせることができます。それに対し、触られなかった植物は、茎が細くヒョロヒョロと背丈が高くなります。そのため、大きくりっぱな花を支えられないので、自分で支えられる小さな花を咲かせます。すなわち、「植物を撫でながら育てたら、ふつうよりずっときれいな美しい花が咲く」といえば正しいと言えます。

この性質は、大きな花を一輪だけ咲かせるキクなどの栽培に使われます。茎を短く太くたくましくする薬が市販されていますが、薬を使いたくなければ、キクを撫でまわして育てればよいのです。日が経つにつれて、撫でまわしたキクは伸びずに、茎が短く太くたくましい植物になります。そして、大きくりっぱな花を咲かせます。植物たちには、言葉の意味はわかりませんが、「きれいな美しい花を咲かせたい」と思っている人の気持ちは通じるのかもしれません。植物たちは、その期待に応えようと、がんばるのでしよう。この性質は、植物たちにとって、生きていくために必要なもののはずです。

樹木は食べられる宿命に、常に備える

動物が食べているものは、何でしょうか。それは、植物たちのからだです。動物を食べている肉食の動物もいますが、動物が 「何を食べて大きくなったのか」を考えれば、植物に行きつきます。植物たちは、すべての動物の食糧の源であり、食べられることので、地球上のすべての動物を養っているのです。だから、動物に食べられることは、植物の宿命です。「動物に食べられる」という宿命にある植物たちも、食べられるだけでは滅びてしまいます。そこで、食べられても、その被害があまり深刻にならないような、巧妙な性質を備えています。身近に見ている植物たちの成長の仕方に、その性質は隠されています。

発芽してどんどんと成長を続ける植物は、茎の先端にある芽が背丈を伸ばしながら、次々と葉っぱを展開します。茎の先端にある芽を 「頂芽」といいます。枝分かれしないヒマワリやアサガオでは、上にグングン伸びていく頂芽だけがよく目立ちます。しかし、芽は、茎の先端にあるだけでなく、すべての葉っぱのつけ根にもあります。その芽を「頂芽」に対して、「側芽」といいます。側芽は、頂芽がさかんに伸びていると きには伸びません。頂芽だけがグングン伸び、側芽が伸びない性質を 「頂芽優勢」といいます。

動物に食べられたときに、この性質が威力を発揮します。頂芽を含めて植物の上の方の部分が食べやすく、やわらかな若い葉なので、動物に食べられることが多いでしよう。そのあとで、植物たちはどんな成長をはじめるでしょうか。食べられた下には、多くの側芽があります。どの位置まで食べられるかはわかりませんが、頂芽があったときには、下の方の側芽であったもののどれかが一番先端になります。すると、その側芽が次の頂芽となり、「頂芽優勢」 の性質で伸びはじめます。食べられた茎の下方に側芽がある限り、一番先端になった側芽が頂芽となり伸びだすのです。上の芽と葉っぱが動物に食べられても、茎が折られて上の方の芽と葉っぱがごっそり なくなっても、茎の下方に側芽がある限り、一番先端になった側芽が頂芽となって伸びるのです。そのため、食べられて、しばらくすると、何ごともなかったかのように、食べられる前と同じ姿に戻ることができます。これが、「頂芽優勢」という性質の威力です。

頂芽優勢という現象は、オーキシンとよばれる物質に支配されていると考えられています。この物質は、頂芽でつくられます。そして、頂芽を切り取ると、側芽が成長をはじめることから、「頂芽でつくられるオーキシンが、茎を通って下の方に移動し、側芽の成長を抑えている」と考えられているのです。頂芽を切り取ったあと、その切ロにオ—キシンを与えてみます。すると、頂芽がないにもかかわらず、側芽の成長が抑えられます。そのため、「頂芽でつくられるオーキシンが、茎を通って下の方に移励し、側芽の成長を抑えている」ということになります。

頂芽となった芽の成長は、サイトカイニンという物質で促されます。これは、植物の「若返りホルモン」といわれ、芽の成長などを促します。この物質は、側芽のそばの茎の部分でつくられます。そして、そばの側芽に供給されて、側芽の成長が促されます。 一方、頂芽から移動してくるオ—キシンは、サイトカイニンがつくられるのを抑えます。そのため、側芽は成長ができないのです。頂芽が切り取られると、オ—キシンの抑制が取り除かれて、サイト力イニンがつくられ、側芽が成長をはじめます。

「もし植物たちが動きまわることができたら、逃げることもできるので、動物に食べられないのに、動きまわれないから食べられてしまう」と思われるかもしれません。でも、もし植物たちが完全に逃げまわることができたら、動物たちは何も食べられないので、生きていけません。しかし、植物たちは、そのようになることを望んでいないでしょう。「少しぐらいなら、動物にからだを食べられてもいい」と思っているはずです。なぜなら、植物たちは、「動物に生きていてほしい」 からです。植物たちは花粉を運んでもらうのに虫や鳥などの動物・昆虫(ポーリネータ)の世話になります。また 動物のからだにくっついてタネを運んでもらいます。動物に実を食べてもらうのも大切なことです。食べてもらえば、実の中にあるタネを糞といっしょにどこか遠くに排泄してもらえます。あるいは、食べ散らかすようにしてタネをどこかに落としてもらえます。動物に実を食べてもらうと、植物たちはタネをまき散らしてもらえるのです。そのため、「少しぐらいなら、動物にからだを食べられてもいい」と思っている植物たちは、「頂芽優勢」 のようなしくみを身につけているのです。「食べられる」という宿命に対して、常に備えているのです。

休眠する「越冬芽」

春に花咲く多くの樹木、ウメやサクラ、モクレンやハナミズキなどのツボミは、前年の夏ごろにつくられます。ツボミが夏につくられるのなら、秋に花が咲いても不思議ではありません。しかし、秋に花が咲くと、すぐにやってくる冬の寒さのために植子がつくれず、子孫が残せません。もしそうなら、種族は滅びます。そうならないために、これらの樹木は、ツボミを、秋の間に、冬の寒さをしのぐための越冬芽に包み込みます。

越冬芽が形成されると、夏にできたツボミは、春になるまで花が咲きません。秋に春の暖かさを 与えても、越冬芽は花を咲かせません。これは、「芽が休眠している」といわれる状態です。それなのに、冬の低温を体感したあとの春には、暖かさに反応して、越冬芽は花 を咲かせます。ということは、冬の低温を感 じると、越冬芽の中で、暖か くなると発芽したり花が咲いたりするため起こることになります。

冬の寒さに出合う前の越冬芽にはアブシシン酸という物質が多く含まれています。この物質はツボミの開花を抑えます。寒さを感じると、越冬芽のなかでは、この物質が減ります。一方、暖かくなるにつれてジベレリンという開花を促す物質がつくられます。

冬の低温の中で、発芽の進行やツボミの開花が抑制されているだけではないのです。アブシシン酸という物質が減少していくという反応が、積極的に進められているのです。アブシシン酸とジベレリンは、越冬芽だけでなく、種子の発芽でも同じことが起こっています。

「皆さんの今後を期待します」としめくくりました。

カテゴリー: 報告自然観察会

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